満月の夜は交通事故が多い?
差は見られない
警察・救急の現場で長く語り継がれてきた説です。事故への備えと安全運転は、月齢と無関係にいつでも必要です。
日本(人身事故・警察庁)
- 平均(全期間)
- 840 件/日
- 満月の日 (±24時間)
- 838 件/日
- 新月の日 (±24時間)
- 837 件/日
- 満月の日の判定
- 差は見られない
- 対象データ
- 2019年〜2024年・1,841,353 件
米国(死亡事故・NHTSA FARS)
- 平均(全期間)
- 96 件/日
- 満月の日 (±24時間)
- 96 件/日
- 新月の日 (±24時間)
- 97 件/日
- 満月の日の判定
- 差は見られない
- 対象データ
- 2000年〜2024年・880,978 件
第2幕: 月でないなら、何がぶつけるのか
「差」を探しに来た方へ。本物の差はこちらです。
×2.2
事故が最も多い時間帯は17時台——平均的な時間帯の約2.2倍です。通勤・帰宅の流れと夕暮れの視界が、道路の上のリスクを決めています。
曜日では、最も多い金曜日は最も少ない日曜日の約1.6倍。ハンドルを握る人の数とその時間帯こそが、事故件数の正体です。
事故を増やすのは月明かりではなく、17時の道路の混雑と疲れでした。安全運転は、どの月齢の日も。
「満月の夜は事故が増える」という現場の実感
「満月の夜は荒れる」——これは警察・救急・ERの現場で、世界中で語り継がれてきた実感です。英語圏には lunar effect(月の効果)という言葉があり、満月のシフトを警戒する救急隊員は今も珍しくありません。長く現場に立つ人の実感を、机上の理屈で笑うことはできません。だからこそ、本ページは実感と同じ土俵——実際の事故記録——で確かめます。
理屈の上でも、満月が事故を増やしそうな筋書きは作れます。満月の夜は明るく、外出が増えるかもしれない。月光が運転者の注意を引くかもしれない。睡眠が浅くなるという研究もあります。問いは「筋書きが作れるか」ではなく、「数十万件の事故記録に、その痕跡が実際に残っているか」です。
実は「満月で増える」とした研究もある
2017年、BMJ(英国医師会雑誌)に「満月の夜は米国のオートバイ死亡事故が約5%多い」とする研究が掲載されました(Redelmeier & Shafir)。著者らは月光そのものより「視線が月に向かう一瞬」を仮説に挙げています。一方で、交通事故全体と月相の関係を調べた研究の多くは、有意な差を見出していません。つまりこのテーマは「とっくに決着済み」ではなく、対象と方法によって結論が揺れてきた領域です。本ページの判定は、日米の全人身事故・全死亡事故という最も広い網での検証です。
この判定はどう計算しているか
- 日本: 警察庁の交通事故統計オープンデータ(本票)から、全人身事故の発生日を日次集計しています(2019年〜)
- 米国: NHTSA FARS(死亡事故報告システム)から、全死亡事故の発生日を日次集計しています(2000年〜)。日本は「人身事故」、米国は「死亡事故」と指標が異なる点にご注意ください
- 事故件数には強い曜日効果(通勤・週末)と季節性があります。そこで「同じ曜日×同じ月」の平均を期待値とし、実測÷期待の指数で比較します。出生・為替トピックと同じ調整方式です
- 各国の正午時点(日本=JST、米国=東部時間)の月齢で「満月の日(瞬間±24時間)」「新月の日」を判定し、各グループの指数の平均を平常(1.00)と比較します
詳しい判定基準は方法論をご覧ください。
現場の実感はどこから来るのか
仮に判定が「差は見られない」だとしても、現場の実感が嘘だということにはなりません。荒れた夜に空を見上げれば、満月は記憶に残ります。何もない夜の満月は思い出されません。確証バイアスと呼ばれるこの仕組みは、誠実に働く人ほど強く効きます——印象的な夜ほど、記憶に深く刻まれるからです。データができるのは、その記憶の偏りを件数で補正することだけです。
データ出典
- 警察庁 交通事故統計情報のオープンデータ(本票)
- NHTSA FARS(Fatality Analysis Reporting System)
- Redelmeier DA, Shafir E. "The full moon and motorcycle related mortality" BMJ 2017;359:j5367
- 月齢・朔望の瞬間は Jean Meeus "Astronomical Algorithms" のアルゴリズムによる自前計算(UTC基準)
最終更新: 2026年6月12日 11:12 (UTC)(毎日自動更新)